「おにーさんはどこから乗ったんですか??」
『大阪難波からだよ』
「あ、最初からですか。いいなー」
努めて冷静に会話を進める。
大人だからね。
でも私は気づいている。
ほぼ100%の確率で、このおにーさんはキミの親御サンたちより年上なのだよ、と。
そんな中、彼のキッズ用スマートフォンが鳴り出す。
「あ、お母さんからだ。ちょっと電話してきます」
どうやら彼にとっての初めての独り旅らしい。
お母サンからすればそら心配だろうよ。
思えば、ワシの独り旅も8歳くらいだったな…。
伯父さんが金沢駅のホームまで迎えに来てくれたっけ…。
勝手に懐かしい思いにふける中、お母サンからの電話攻撃は続く。
子供ながらにシビレを切らしたのか、「すいません」と断りを入れた上で電話に出た。
「もう電車の中やけ、喋れんのよっ!!」
車両全体に聞こえたであろう大きめの声。
相手が相手だけに皆微笑ましく見守っていたように思う。
大人ですよ。
電話攻撃はLINE攻撃へと移った。
どうやら名古屋で落ち合うはずのお母サンが遅れてしまうらしい。
話しかけられた。
「あのー、お母サンが来るまで一緒にいてくれませんか??」
はぁ??
「そうすれば、おにーさんと一緒にリニア・鉄道館行けるかなーって」
話の流れでこれからリニア・鉄道館へ向かうことは伝えていた。
良かれと思って言った言葉が必要以上に刺激してしまったらしい。
それ以前に「一緒に」って何だ??
ほんの数十分前に出会った見ず知らずの「おにーさん」をそこまで信用していいのか??
それより私に未成年者誘拐の疑いがかかるかもしれない。
そして楽しみにしていたきしめんを食べ損なうことになってしまうのか…??
「あっ!! 天井の色が変わった!!」
終着駅が近づくと間接照明の色が変わる。
えっ?? ワシはこの先どうなるんだ??
一人悶々とする内に名古屋へ到着。
「おにーさん、ありがとうございました。バイバーイ」
何事もなかったかのように手を振り去っていく少年。
あれっ??
まんまと子供に弄ばされてしまった。
ワシの車窓の楽しみを返せ!!
どっと疲れたぜ…。
そしてこの後、suicaのオートチャージの不具合により改札で足止めを食らったのだった…。